ハルアトスの姫君―君の始まり―
* * *


触れた瞬間、思うというよりはむしろ考えてしまった。
〝ジョアンナの過去に何があったのだろうか〟と。


触れたのはジョアンナの腕だった。
腕からダイレクトに映像として浮かぶのは…





『…どうしてっ…』
―――悲痛な、絞り出すのもやっとのような声が震えている。
がっくりと膝をついて、顔を両手で覆って。


黒くて長い髪が、揺れた。涙が一粒、静かに落ちた。


そして肩を震わせて泣いていた〝彼女〟がいなくなる。
人の気配がして振り返ると、場面ががらりと変わっていた。





『…人間は私から……を奪った…ならば全てを奪い返す…。』


さっきまで見ていた顔と比べても老けてはいないその面立ちのために、泣いていた〝彼女〟からどれくらいの年月が流れたのかは分からない。
ただ、はっきりと違っているのは身体から放たれるオーラだ。
冷たい、切ない、悲しい。そのどれにも当てはまらない。あるのは破壊を求める衝動性と狂気だけだ。


「これは…さっきのジョアンナの…後の…こと…?」


キースみたいに理解が早いわけでも、魔法のことや魔法使いのことに詳しいわけでもない。そのため、見ている状況を上手く分析できない。


「誰かを…失った…?人間が…奪った…?あ、あたしは何を見ているの…?」


こうして言葉を発しても、ジョアンナは反応を全く示さない。つまり、彼女に私は〝見えていない〟


またしても場面が移り変わる。あちらこちらに〝ジョアンナ〟がいて、そのどれもが表情は様々であるのに面立ちは変わらない。
―――見えるものが全く安定しない。

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