ハルアトスの姫君―君の始まり―
「っ…。」

「貴様…我が記憶に触れおったな…!」


時が動き始めた。
眼前にはジョアンナがいる。腕に触れていた手をばちんと振り払われて、意識がはっきりと最初に飲み込まれた場所へと戻ってくる。


「キース、貴様も…。」

「…ジアに触れていたからでしょうね。断片的にしか見えませんでしたが。」

「っ…貴様ら…!」

「…見ちゃいけないものだって途中で気付いたけど、どうしようもなかった。
どうやってあの場に行ったのかも分からなかったし、多分…力も使いこなせてはないんだろうし。」

「まぁ良い。力を封印されたお前ならば操れる。」


そう言ってジョアンナが真っすぐに手をかざす。





「ヴィステンが戦場に赴くって決めた日にあたしは戻ってた。」

「…っ…。」


ジョアンナの表情が歪む。かざされた手が小刻みに震えている。


「全部が分かるとは言わないけど、でも…似ているって思った。あたしとあなたは。」

「ジア…?」


ゆっくりと離れたキースが、後ろから名を呼んで問い掛ける。


「行ってしまうって決めた人を追い掛けなかったところは…同じだった。」


思わず苦しい笑みが零れた。
思い出したくはない。あの想いも、あの〝さよなら〟も。
それでも、そこがもしかしたらジョアンナとの唯一の共通項だから。

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