ハルアトスの姫君―君の始まり―
「物分かりの良いフリをして、守られる自分を取った。
…守りたいなんて口先だけだった。自分の弱さから目を逸らして、泣くことしかできなかった。
離れないと守れない、なんて嘘なのに。」





相手の意志を尊重しているようでそうじゃない。
置いていかれる可哀想な自分でいたのは…紛れもなく〝自分〟だ。





「守りたいって本当に思うなら、一番近くで守ってよって…そう言えば良かっただけ…なのに…。」


最後の方はどうしても声が震えた。
キースの手がそっと肩に触れた。


「未来は自分で決める。変えたい未来も、守りたい未来も。」

「綺麗事を…!もうヴィステンは戻らない。それが全てだ。
ヴィステンのいないこの世界など、壊すしかないだろう?」

「世界を壊しても、あたしを殺しても、あなたの心は絶対に満たされない。
…そんなこと、分かっているんでしょう?」

「心など…満たされるはずがない!
ヴィステンは…ヴィステンは国に殺されたんだ!」


悲痛なジョアンナの叫びがひたすらに痛い。
あたしが泣いても意味なんてないことは分かっている。それでも溢れだす涙を止めることができない。


「お前が泣くなっ…!私の気持ちなんてお前にはこれっぽっちも分かるはず…ないんだ…!」

「…分かんないよ。気持ちなんて。自分の気持ちだってちゃんと分かんないのに、ましてや人の気持ちを完璧に理解することなんてできるはずがない。
でも今必要なのは〝共感〟じゃない。」


歪みを生んだ想いの始まりを知った。
でもそれは破壊を許す理由にはならない。

< 336 / 424 >

この作品をシェア

pagetop