ハルアトスの姫君―君の始まり―
「ヴィス…テン…?どうして…?」


そこにいたのは変わらぬ〝ヴィステン〟だった。無表情のまま、声も発さずにただゆっくりと近付いてくる。


「…何故彼が…?」

「あ、あたしにも分かんないっ…。」

「ヴィステン…本物…なのか…?」


ジョアンナの前にぴたりと止まったヴィステンは微笑を浮かべた。
すぅっと息が少しだけ吐き出される。―――彼は呼吸をしている。





「ヴィス…テン…?」





ジョアンナの白くて細い指がそっと、ヴィステンの少し日に焼けた頬に触れた。
―――その瞬間だった。


ぐわんと歪む視界。そしてその空間自体が揺らいでいることへの理解が遅れてやってくる。


「キース!なにこれっ…?」

「分からない!でもここを出ないとまずい。」

「ジョアンナ!」


ジョアンナを見つめると、どうやらあたしの声は届いていないようだった。
その瞳はただヴィステンを見つめている。




『…ごめんな、お前をこんなにしちまって…。』

「ヴィステン…!」


「…口は開いてない…。声がヴィステンから聞こえるわけじゃない…。」

「状況の整理は後だ!ヴィステンがこの空間に歪みを生じさせてる!
早く出ないと、ここから一生出れなくなる。」


キースが強く、あたしの腕を引いた。

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