ハルアトスの姫君―君の始まり―
「おれの好きなミアの顔は…やっぱ笑顔だから…。
だから泣かないでくんねぇか…。おれが泣かしてるみてぇでさ…。」

「ごめっ…だ、だって…。」

「…驚かせたよな。それに混乱させてごめん。
ちゃんとミアの立場、分かってるから。」

「たち…ば…?」


潤んだ瞳のまま顔を上げ、おれを見つめるミア。
一瞬気がおかしくなりそうだったがなんとか堪えてそのまま見つめ返す。


「…お前はハルアトスの姫だ。ジアが目を覚まさない限りは第一王位継承者だ。
それにひきかえ、おれはただの薬屋の息子。身分が違うにも程がある。
…ちゃんと分かってるよ。それなのに、こんなこと言うなんて…バカ、みてぇだよな…。」


後半は独り言のようなものだった。
分かってるんだ、頭の中では。
今更、言うつもりなんてなかったとは言わない。聞かれて、あえて更に口にしたのはやっぱり伝えたかったからだと思うから。


「勝手だよな、それも分かってる。
こんなこと言われたら普通、どうしていいか分かんなくなるっつーのもちゃんと理解してる。だからごめ…」

「それは…何の謝罪なの?」

「え…。」


目の前のミアがとても傷付いた顔でそう言った。


「謝られる意味が分からない。
…だから、その謝罪は受け取れない。」


いつになく、というかもしかしたらおれが記憶している限りでは初めてかもしれない。
こんなにもミアがはっきりと物を言うのは。

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