ハルアトスの姫君―君の始まり―
「なんだ?これは決定事項だろ?」

「出発は明日…だけど…こうして目が覚めたんだし…。
それにキースは氷の涙を知ってるのよ?」

「でもそれがどこにあるかは知らない。それが全てだろ?」

「…それはっ…。」


ジアの方が圧倒的に分が悪かった。
クロハはいつだって正論だ。嘘も言わないし、感情的になることもあるけれど普段は常に理性的だ。


こういう時に思う。
自分はとても…感情的、だと。


「俺を連れていくのは出来ないってこと?」

「そうだ。足手まといだからな。」

「怪我が完治していても、かな?」

「完治なんかしてるはずないだろ…?」

「…完治してるよ。もう。」

「にゃ?」

「え…?」

「お前何言って…。」


呆然とするジアたちをよそに、キースはすっと立ち上がった。
血まみれの服が痛々しいのに、本人はいたってけろっとした顔をしている。


「君たちの治療のおかげでもう俺に傷は残ってないよ。」

「見せてみろ!」


クロハががばっとキースのシャツをたくし上げた。
腹部にあった切り傷がものの見事に治っていた。
傷一つない、とはまさにこのことだった。

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