ハルアトスの姫君―君の始まり―
「…自分のこと、か。」

「シュリ。」


後ろからすっと抱きしめられる。


「…なんだ?」

「僕は埋めたい。離れていた時間の分を…空白を埋めたい。」

「離れていた…時間…。」


こうして触れることのできる距離にいると、何が昔で何が今なのかがよく分からなくなる。あまりにも自然に触れるその手と、あまりにも当たり前のように在ることが、時の隔てを感じさせない。
確かに離れていたはずで、死を覚悟し、共に果てようと決めたこともあったのに。
―――本当に離れていたのだろうか?


「不思議なものだな。」

「…何が?」

「こうして自然に前の私達に戻っていることが。
あれだけ傷付け、傷付けられて…それでもこうしていることが。
…状況は理解しているつもりだ。だが、なんだか…足元がふわふわしているというか、…あまりにも上手くいきすぎているような気さえしてくる。
現実だが、嘘みたいで消えてしまいそうでもある。」

「消えないよ、今度こそ。」

「…たとえ消えても、戻ってくる。
私は待つと約束した。その約束は命果てるまで守り抜くと決めている。」


抱きしめるシャリアスの腕に力が籠った。その腕にそっと手を添える。


「…待っててくれてありがとう。信じてくれて、ありがとう。」

「当然だ。」

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