ハルアトスの姫君―君の始まり―
「お前を待ち続けることが長年の間、当たり前になってしまっていて…それがもういらなくなってしまった今、実際にどうすればよいのか分からない。
…なんだかぼんやりとしてしまっている。」

「じゃあゆっくり考えようか。今度は僕もちゃんといるから。」

「…そうだな。私はもう…独りではなくなった。」


口に出して初めて実感として捉えることができるようになった。
―――私はもう、待たなくてよい。
会いたい人はいる。今は、もう傍に。


「長い間…本当に長い間、待たせたね。
だからもう…今度は絶対に離さないよ、シュリ。」


正面からゆっくりと抱きしめられると、身体ごとそのまま昔に戻ったかのような錯覚を起こす。そんなことはあるはずがない。だが、感覚的に言えばそれが一番正しい。
進んでここまで来たというよりはむしろ、在るべき姿…昔の私達に戻っただけのようにも思える。


たくさん傷付いて、たくさん傷付けて、涙を流して、その果てに終わりを見て。
全ての破壊と戦いの先に、二人で在る未来を選んだ。





「自分の心配は…あまりしていないんだ、正直に言うと。」

「奇遇だね。僕もだよ。」

「おそらく理由も同じだろうな。」

「…うん。だって隣に…。」

「お前が」

「シュリがいるから。」


くだらない答え合わせに思わず笑みが零れる。
額がぶつかり合って視線が重なって、その笑いは増幅する。


「ゆっくりと生きていこう。
時間的な意味じゃなく、心の持ちようとして。
歩幅を合わせて、いつも隣には君がいる。そんな風に。」


私はゆっくりと頷いた。
空白は埋められる。ゆっくりと時間をかけて。

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