ハルアトスの姫君―君の始まり―
「…強いね、ジアは。」

「そんなこと…ないよ。」

「…俺は自分が思っていたよりもずっと弱かったみたいだ。」

「え…?」

「表面的な強さは…多分あった。それは生きていくために必要だったから。」

「それは…剣の腕とか魔法とか…?」


キースは頷いた。


「…ジアには全て話そうと思っていたんだ。だから、何でも訊いて。全部答えるよ。」


そう言われると何から訊けば良いのか分からなくなる。気になることや知りたいことなら山ほどあるはずなのに。
しばらく考えを巡らせてはたと気付く。


「…ジョアンナは…?」

「まずはそこから話そうか。
ジョアンナは戻ってきていないよ。ついでに言うと、ジョアンナが戻ってこないことによる時代の変化も今のところはない。」

「どういう…こと…?」

「呪いが解けて全ての力が戻ったジアが力を制御できずに暴走してしまったことは覚えてるかな?」

「…覚えてる。」


なんとなく、感覚としては分かる。ただ、その時のことを全て鮮明に覚えているわけではない。


「力の暴走によって、巨大時計に時空の歪みが生まれた。
ジアの力は時を司るものだ。俺はその力を持っていないし、時を操る魔法について勉強したことがないから確信的なことは言えないけれど、…でもおそらく、過去に行くことも未来に行くことも可能なのかもしれない。時を止めることは普通にできるようになるだろうね。」

「時間を…止める…?」

「実際できただろう?覚えていない?」

「…覚えてる…けど…でもあれはあたしのコントロールでは…。」

「ない、けどね。でも咄嗟にあれだけできれば上出来だと思うよ。」


キースは穏やかに微笑みながら、さらに話を進めた。

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