ハルアトスの姫君―君の始まり―
「それで、力の暴走…まぁ覚醒と言った方が正しいかもしれないけど、圧倒的に強い力によって故意に開けられた…本来開けられるべきではない時間という空間に俺たちは飛び込んだ。
そしてその中でジアはジョアンナの過去に立ち合った。それを俺も見た。」

「え…?キースも?」

「うん。ジアはジョアンナに触れた先から多分過去を見たんだろうけど、そのジアを介して俺も見た。
…多分というかさっきから本当に憶測を出ない話ばっかりで申し訳ないんだけど、力をコントロールできていないからこそ俺にも見えたんだと思うよ。
ただ、力にブレがあるからこそ俺も全て見たわけではないけど…でも大まかなところは見ていたと思う。」

「じゃあヴィステンのことも…。」

「そう。問題はそこなんだ。なぜ過去の空間にしか存在し得ないヴィステンがあの場に現れたのか。
…ジアが眠っている間に色々本を読んだよ。王宮の人たちも知りたがっていたしね。真相を。」


キースが視線を向けた先には山積みにされた本があった。背表紙の文字が目に入ったがあたしには読めない。


「そもそも、ジアの場合は過去を見たというよりはむしろ身体ごと過去に戻っていたと言った方が正しい気がする。俺はそのジアが見たものをそのまま見ていたって感じだったからね。ジアはそうじゃなかっただろう?
…あの時の感じを思い出せる?」

「…あの時の感じ…。」


記憶を手繰り寄せて、あの時の感覚を呼び覚ます。


「…あたし、ジョアンナに触れた時、思ったの。
何があったんだろうって、どうしてこんな風になっちゃったんだろうって。その理由を知ったから全てを許せるわけじゃないけど、でも理由を知らないで責め立てるのは何か違う気がして…。」

「…じゃあ、きっかけはジアの想いだったんだろうね。
ジョアンナの一番強い記憶…過去へ戻るきっかけになったのは。」

「それで触れたら…いきなり場面が変わった。たくさんのジョアンナが出てきて、安定しなくて…でもしばらく経ったら落ち着いた。
ジョアンナとヴィステンの別れの場面に。」

「なるほど。俺が見たのはそこからだったな。」

「安定したから見えたのかも…。」

「うん。そうだね。そう考えるのが妥当だ。」

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