ハルアトスの姫君―君の始まり―
『キースは変わらないわね。』
「どうして…なんで…ここに…。」
『あなたたちの想いの強さに、引き寄せられて。』

 キースの瞳から静かに涙が零れ落ちた。それはあまりに無垢で、透明な涙だ。ジアは真っすぐにルナを見つめ返すと、ルナは柔らかく微笑んだ。

『キースが自分以外の誰かの隣を歩くなら、私やっぱりあなたがいいわ。』
「え…?」

 突然の言葉に、ジアの頬が不可抗力で赤く染まる。

『あなたから伝わるたくさんの「ありがとう」が、この石碑に手向けられた花束よ。』

 ルナの瞳は満ち足りた目をしていた。ジアに向かって一度頷くと、その目はキースに向いた。

『キース、生きることを諦めないでね。どれほど辛くても、生きていればあなたの隣を歩く人に出会えたでしょう?』

 キースは何も言えないでいる。その姿にルナはまた言葉を被せた。

『…会いにきてくれて、ありがとう。いつでも風で、あなたに応えるわ。』
「…あり…がとう、ルナ。」

 にっこりと微笑んだルナは、すうっと石碑の中に吸い込まれていった。

「ありがとう、ルナ。」

 それを伝えるためだけに、ここに来た。そして、何の能力が開花したのかは知らないが会えるはずもない人に会うことができた。そして『ありがとうの花束』を受け取ってもらえた。

「…ねぇキース。」
「…なに?」
「ありがとうの花束って…ルナは言ってたけど、でもね、それだけじゃあんまりだと思うの。だから…。」

 ジアはキースの手を引いた。向かう先は、草木の香りが強そうな場所。

「…とびきり綺麗な花を、手向けましょう。」
「…そう、だね。」

 キースの瞳からもう一筋の涙が零れ落ちた。しかし、ゆっくりと頷き、ジアの手を握り返す手は強くなった。

「…行こうか。緑が多いのは向こうだよ。」
「うん。」

*fin* 
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