ハルアトスの姫君―君の始まり―
「キース…?」


その目の意図が正確には理解することができず、ジアはその目をじっと見つめることで応じた。
しかしキースはそれ以上何も言うつもりはないらしい。


「…先を急ごうか。次の休息場を今日中に見つけないとまずいだろう?」


その目はもうこれ以上何も言わないということを暗に語っていた。
何を聞いても無駄だとジアは直感的に察する。


「うん…。」


それから、誰も口を開く者はいなかった。
あの光景がジアの頭の中を駆け巡っている。


『ヒトのカタチだけどヒトじゃないイキモノ』


そんなものを見るのも聞くのも生まれて初めてだった。
そして戦うのよりも先に、その終わりを見てしまった。
ボロボロと朽ちていく身体。土に還っているのは確かだったけれど、あんなに不自然に還っていくものだろうか。
キースの説明は理解出来た。
レスソルジャーという存在の定義も、その存在もこの目で見、この耳で聞いた。
でも上手く飲み込めない。…割り切れない。


あんなに哀しくて残酷な存在がこの世にある、ということを。


「おいジア…。お前、大丈夫か?」

「え?」


後ろから声を掛けてきたのはクロハだった。
ジアの前を歩いていたキースも歩みを止めて振り返る。



「…足元、覚束ないんだけど。」

「ごめん…。ちょっと混乱しちゃって。」


上手く誤魔化せればいいのにとは思うものの、困惑していることが表情にありありと出てしまっている。
こういう時に誤魔化せないのはジアの長所であり短所だ。

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