ハルアトスの姫君―君の始まり―
「ジア…。」


切なげに名前を呼んだのはキースだった。


「あ、違うの違うの!別に大丈夫だし、ちゃんと理解してはいるんだけど…。」

「『感情がついていかない』んだろう?」


あまりにも簡単に見透かされていたことに動揺し、ジアの目が泳ぐ。
クロハは面白くなさそうに顔を歪めた。


「そもそも、お前のせいなんだからな。」

「うん。自覚してるよ。でも…言わずにいてもこうしてこの森を越えていく以上、絶対に出会うものだから。」

「だとしてもなぁ…。物事には順序ってもんが…。」

「クロハ。」

「んだよ?」

「あたしは大丈夫。あたしが…感情に揺さぶられてるのが良くないだけだから。」

「んなこと…。」

「冷静さを欠いて感情に流されるのは、『剣士』にとって命取りよ。
だから…大丈夫。ちゃんと割り切るから。」

「……。」

「キースのせいじゃないよ。教えてくれてありがとう。」


何か物言いたげなキースの言葉を振り切るように、ジアは歩みを進めた。先頭に立って。


「キース。」

「なに…かな?」

「氷の涙の情報に詳しい人は知らない?」

「…そうだね、心当たりはある。いるかどうかは分からないけど。」

「え?」

< 45 / 424 >

この作品をシェア

pagetop