ハルアトスの姫君―君の始まり―
* * *


3時間ほど経った後、階段を下りてくるやや重い足音が聞こえてきた。


「ふぁー…ってミア…?つーことはジアが来たわけ?こんな朝っぱらから?」


大きな欠伸をしながら両腕を上に伸ばして身体を伸ばす。
彼こそが先程ジアが叫んだ名前の持ち主、クロハ・ローシュ。


「クロハ、遅いわよ。」

「あれ?なんでリルが店番?」

「お母さんに起こされたからよ。今日はお父さんとお母さんで薬草の調達に行くみたいだし。」

「へー…で兄さんたちは?」

「ジェイもサンも薬の配達よ。あなただけなんだからね、こんなに遅くまで寝てたの。」

「遅くって…まだ9時だぞ?」

「ジアは6時には訓練に行ったわよ?」

「…ジアは剣バカだから。」

「確かにそうね。でも…傷は減っていたわよ?」

「おれが治したもん。」

「あなたじゃなくてお父さんたちの薬が、でしょう?」

「適切な治療をしたのはおれ。」

「あらそう。」


リルはそれだけ言い残すと奥の棚の薬の整頓を始めた。
クロハは赤茶色の髪を右手で掻き上げながら左手で目をこすった。


「…はよ、ミア。」

「にゃあ~…。」

「っておれには通じねーんだよな…。」


クロハは切なげに言葉を零した。
そんなクロハの足元にすっとミアは身体を寄せた。

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