ハルアトスの姫君―君の始まり―
そんないつも通りの薬屋『ローシュ』に異変が訪れたのは突然だった。
ギィ…と鈍い音を立てて、腰の曲がった老婆が薬屋に入ってきた。
それ自体は何ら問題はない。しかしこれは確かに〝異変〟だったのだ。


「あ、いらっしゃいませ。今日はどんな薬を…?」

「…お尋ねしたいのだが…。」


クロハの言葉はしわがれた声に遮られた。


「はい?」

「『氷の涙』をお前さんは知っておるかの?」

「氷の…涙?なんすか、それ?」

「クロハ!お客様になんて口のきき方を…。」

「リル!」

「構わん構わん…それよりも…知らぬか、氷の涙の存在を…。」

「それ、なんなんすか?」

「…全ての呪いを解く幻の宝石じゃ。」

「全ての…呪い?」


クロハの黄色の瞳がはっとしてミアを見つめた。
その瞬間を老婆も横目で見つめていた。


「知らんか…。ここなら知っている人間もいるかと思うてのぉ…。」

「手掛かりはねーのか?」

「…手掛かり、とな?」


老婆の赤い目が黒く光ったのに、クロハは気付かなかった。
それほどまでに魅力的な言葉だったのだ。
『全ての呪いを解く』という言葉は。

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