ハルアトスの姫君―君の始まり―
「彼女の生き方を見たいと思ったんです。」

「生き方…だと?」

「はい。
あの真っすぐな瞳に捉えられたのかもしれません。
彼女の、前しか見ないその生き方をこの目でもう少し見てみたいと思ったのが始まりでした。
でも、俺を連れていくかどうかは彼女に任せたんですけどね。」

「どういういきさつだ、それは。」

「彼女に俺の命を預けたんです。好きにしていい、と。」

「随分捨て身だな。そんなに我が身が可愛くないイキモノも珍しい。」


思わず苦笑が漏れた。
あえてそこを『ヒト』とは呼ばないあたりがさすがだとも言える。


「自分のことを大切だと思ったことなど、一度もありませんから。」


それは紛れもなく本心だった。
生まれてこなければ良かったなんて思ったことはないけれど、生まれてきて良かったと思えたことなど数えるほどしかない。
そんな幸せさえ、もう今は遠い過去のものだ。
もう二度と触れることさえ、できない。


「言うつもりはないのか?」

「何をですか?」

「事実を。」

「…そうですね。少なくとも今は言いません。」

「クロハは気付くやもしれん。」

「その時はその時ですよ。」

「そんなものか。」

「そんなものです。」


どうすれば自分を大切にできるのだろう。
死にたくないとさえ思わない自分はどうかしているのだろうか。
そんなことを思うと、ジアの顔が浮かんできた。

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