ハルアトスの姫君―君の始まり―
【キースside】


「迷わず斬れるようになったら、もう『ヒト』じゃないよ。」


これは半ば、自分に向かって言った言葉でもあった。
もう『ヒト』らしい感情の一部は失われつつある。
かといって、もう一方に含まれることは決してない。それはこの血が許さない。
真っすぐにジアを見つめて、言葉を選ぶ。


「敵が『ヒト』じゃないから割り切れなんて、とても俺には言えない。それをジアに強要したいとは思わない。」


自分のように斬る彼女を見たくないというのが本音でもあった。
彼女の剣に血は似合わない。


「…ジアがどんな自分であることを願うのか、俺には分からない。
だけど…。」

「だけど…なに?」


その先を濁した。
本当のことなど言えない。


「ジアには自分に素直であってほしいと思ってるよ。
嫌なことでも強さのためなら仕方ないと思ってほしくはない。
強さのためなら手段を選ばないなんてことは言ってほしくない。
素直で真っすぐなところはジアの強さだと思うから。」


嘘は一つも言っていない。でも隠した気持ちがあるのも事実だ。


「…甘やかさないでよー…キース。お願いだから。」

「甘やかしてなんかないよ。」

「キースは言葉が優しいんだもん。あたしみたいな人間はハッキリ言われないと分かんないんだから!」


厳しいことなんて、言うこと自体が見つからない。
君はそのままでいい。本心からそう思っている。

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