ハルアトスの姫君―君の始まり―
大きく剣を振り上げてきたレスソルジャーの懐に入るかのように身を屈め、下から上へと斬り裂いた。
返り血を浴びたのだろう。ぬるっとした感触が頬を伝う。


しかしそんなことに躊躇している暇などなかった。
左から来たレスソルジャーは上から斬り落とし、そのまま向かってくるレスソルジャー一体一体に的確な斬り込みを入れていく。


迷いはもうなかった。
それは、気付いたからでもあった。


シャリアスの指摘は間違っていない。
『あたし』は自分を守るために剣を握っている。
自分の命を、自分の生をここで途絶えさせないために。


命と命をかけて戦い、生きるために殺す。
もうこの手は綺麗じゃない。でも、ただ殺すだけじゃない。
あたしは…


「…見事です。それこそ剣士と言えるでしょう。」

「…っ…はぁっ…。」


頬を滴る血は返り血ももちろんあったけれど、一部は本当にジアの血だった。腕や脚からも僅かながら自分の血が滴っていることは、痛みをもって理解している。


「生きるために殺す。それは正しいのでしょうか?」

「正しいわけ…ないじゃない。」

「正しくはないことでも、己の欲望を叶えるためなら貫き通しますか?」

「ええ。望みを叶えるためなら…やるわ。
全てを背負う。命とも呼べないものも、奪ったことは事実。
何かを奪ったこともこの血も全て、あたしが背負うわ。それがあたしの覚悟よ。」


絶対的に足りないものは、『覚悟』だった。
自分の成すべきことに対する覚悟、してしまったことに対する覚悟。
進むなら、覚悟が必要だった。
上辺だけではなく、本気の覚悟が。

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