ハルアトスの姫君―君の始まり―
「キース…。」

「怪我…結構してる…。」

「そんな大した怪我じゃないよ。
このほっぺの傷と、腕を何箇所か。
血が酷く見えるのは…レスソルジャーを全部倒したから…だし。」


不意にキースの手がジアの左頬に触れた。
切り傷の部位にキースの親指が当たり、思わずジアの顔は引きつった。


「切れてる…。」

「だ…大丈夫だよ。名誉の負傷だもん。」

「名誉の負傷って…痛いだろう?」

「ちょっとは痛いけど…平気だから。」


キースの表情がずっと暗いままなのが嫌で、ジアは笑顔を作ってみせた。
それでもキースの表情は暗いままだ。


「キース…あたし大丈夫だよ。だから…」


『そんな顔しないで』
そう言いたかった。でもあまりに辛そうに顔を歪めるキースに、言葉を自然と飲み込んでしまう。


「ねぇ、キース。」

「なに…?」

「あたし、分かったんだよ。あたしに足りなかったもの。」

「答え、見つかったんだね。」


ジアには少し、キースの表情が和らいだように見えた。

< 87 / 424 >

この作品をシェア

pagetop