ハルアトスの姫君―君の始まり―
「うん。だからシュリに言おうと思って。」

「その前に…俺に聞かせてくれないかな?」

「え?」

「ジアは何が足りないって思ったのか…。」


キースの焦げ茶色の瞳がじっとジアを見つめた。
その瞳にいつもは優しさを灯しているはずなのに、今は優しさよりも真剣さの方が強く表れている。


「…覚悟。」

「覚悟?」

「全てを背負う覚悟が、あたしには無かった。
だけど生きるってそういうことだと思ったの。」

「説明してくれる?」


ジアは小さく頷いた。


「綺麗事だけじゃ…何もできない。
自分一人でレスソルジャーに対峙して、いくつもの刃があたしを目指して走ってくるのを見たらね、身体が竦んだんだよね。
『死ぬのが怖い』って本能的にそう感じた。死ねないって思った。
今死ねないのなら、目の前の敵を倒すしかない。たとえこの手が汚れても。」


そう言いながらジアは両手をぎゅっと握った。


「それでも進むなら、背負わなくちゃならないなって。奪ったものも奪ったという事実も。それを背負うことから逃げようとするから…向かい合えなかった。
だからもう逃げたりしないよ。
自分の意志で剣をふるう。そしていつか、あたしもその報復を受ける。
それでも後悔しないと思う。だけどその日までは、あたしは色々なものを奪ってでも進むから。」


もうあたしは綺麗じゃない。
でもそれはあたしが選んだことだから。

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