ハルアトスの姫君―君の始まり―
* * *


熱いシャワーが全てを洗い流していく。
時折傷にしみる熱さだった。


最初はジアの肌を滑ったあとの水が水とは思えぬどす黒い赤に染まっていたが、次第に透明なまま流れていくようになった。
赤が剥ぎ取られたジアの身体には『傷』だけが痛々しく残っていた。


ジアは頬の傷に触れる。
深く切れているわけではないが、神経が通っているだけあって痛い。
腕の切り傷は自分が思っていたよりも多く、両腕を合わせると5箇所ほどある。
右腕に残る切り傷が一番深く、傷口も大きい。


「…まだまだ…だなあたしも。」


ジアの呟きはシャワーの音にかき消される。


ジアはそっと蛇口を捻った。
シャワーは止まり、代わりにジアの髪から落ちる水滴が音を作る。


ジアは無造作に長い金の髪を束ねて絞った。
こうしないとジアの髪の毛はなかなか乾かない。


タオルで身体を拭き、髪も適当に拭く。
さすがに髪からポタポタと水を垂らしてリビングに向かうわけにもいかない。
いつの間にか用意されていた簡単な部屋着に袖を通し、ジアは歩き出す。


「…タオル、血で汚しちゃった。」


一番酷い傷からはまた出血していた。
止血も兼ねて、クロハの指示に従った方が賢明だとジアは思った。

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