致死量カカオ
そのまま保健室を出て行こうと扉に手をかけたとき。同じタイミングでドアががらっと勢いよく開かれて……。
私は目の前に入ってこようとした男の人に頭をぶつけた。
頭というか、顔?
どっちでもいいけど。
そんなに高くない鼻が潰れたらどうしてくれる。
「なに……?」
そう顔を押さえながら見上げたとき。
背後で千恵子と昭平の「あ」という声が聞こえたけれどそれはほんの少しだけ遅かった。
しっかりと見てしまった。
目の前の高城の綺麗な顔を――……。
「ああ、もう起きれたんだ」
綺麗な唇から紡ぎ出される言葉は、音楽みたいに心地良いはずなのに、その声をかき消すかのように私の心臓がどくんどくんと悲鳴のように大きく音を上げて私の中で響く。
「何で……?」
私の代わりにそう答えたのは昭平だった。
私はと言うと体のどこも動かなかったから。
体内は色んな物が駆け回っているのに。
「いや、話があったから」
昭平の言葉に、何も知らない高城は首を傾げながら返事をする。
ああ、耳鳴りまで聞こえてきた。
せっかくの高城の声も聞こえないじゃない。
ああ、息苦しい。
ああ、呼吸が出来ない。
さっきのチョコレートはやっぱり食べない方が良かったのかも知れない。