致死量カカオ

さほど遠くないバス停が見えてくると、思わずほっとする。このまま歩かせるのもなんだか気が引けるし。おぶるわけにもいかねえし。

昨日みたいに意識がなけりゃいいけど。


「あー……」


どうする?と、とりあえず本人に意思確認するかと振り返ったとき、すぐ傍にバスのエンジン音が聞こえた。


「バス、来たから……かえ、ります」


……何で急に敬語?
そう思ったものの口にする暇もなく、豊海は顔を上げて自分の家の方面へと向かうバス停へと歩き出した。

いや、いやいやちょっと待て。


「豊海?一人でー……」

「――や……!」


思わず手が伸びて、先に歩こうとする豊海の肩を掴もうと思った時、まるで触れられたくないかのように、豊海が目を見開いて俺から一瞬にして振り返り拒絶を表した。


「……あ、いや……」


さすがに、やり過ぎた、と思ったんだろうなということは豊海を見て直ぐに分かる。

意識するよりも先に体が反応したってことくらい。


……だけど。
さすがにちょっと――……傷付く、というかイラッとしてしまうのも致し方がないと思わないか?
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