致死量カカオ
「意味わかんないけど、結局やめるって決めてもバスの時間は一緒なんだね?」
「……癖だもん」
私の言葉に首を傾げてから、すっと指を指した先には高城の後ろ姿があった。
今日は一人きりだ。
バスから降りるときから高城の姿くらい気付いていた。だからこそこうやって適度な距離を取って歩いている。
……かっこいい後ろ姿を、後ろから見るくらいは許して欲しいじゃない。
これは、恋じゃない。
ただの憧れだ。
あんなに格好いい人と一時だけだって付き合えたんだと自慢にすればいいんだ。
……すっごい体調悪いけど。
時間がいつか、きっと、多分、もしかしたら、解決してくれるかも。
すごい人任せな感じだけど。
「昨日、高城すごい機嫌悪かったよ?千恵子が怖がるくらい」
そんなの、きっと私なんかに振られたからだよ。
私みたいなちんちくりんが調子乗るなよってことだ。
間違っても私のことを好きで好きで仕方なくて、そんな好きな私と別れないとならないこの運命に怒っているんだ、なんてことない。
いやもうそのシチュエーションおいしいけど。
想像するだけでもうぶっ倒れたい。
私の想像力が私の一番の毒かも知れない。
だけど、これでいい。あり得ない妄想に死ぬかもとか言ってふらふらしている方がよっぽどいいんだ。
そしてこんな風に、後ろとか隠れた場所からこっそりじっとり舐め回すほど見つめるくらいで。
これなら目が合って呼吸が止まることもないし、隣に並んで体が溶けそうになることもない。
吐く恐れだってないし吐いたって見られない。