致死量カカオ
俺もバカだな。
変なのにひっかかったんだ、きっと。
なのに、今こんな風に昔の女を思い出すような事があっただろうかと思ってしまう。
昔の女と言うほど遠い話でもないけど。
「あの……好き、なんですけど……」
踊り場で脚を止めた女は、俺の方を潤んだ瞳で見つめて小さな声で、だけどはっきりと口にした。
肩胛骨あたりまで伸びた髪の毛は、ラフな感じでお団子にされていて、正直今間の俺なら好きな髪型だ。
小さめの身長も、長めのソックスも。
スタイルがいいことは一目で分かる。
だけどなんでこう、気分が乗らないかな……。
「んー」と小さく呟いて彼女から視線を天井に向けて首をちょっとだけ傾げる。
付き合う、というのも何か違うような気がするんだけど。
可愛いのは可愛いんだけどな。
「俺の何が好きなの?」
そんなこと、今まで聞いたことがない。
豊海には聞いたけど。
「え。え、えと……」
女の子は少しだけ戸惑っておろおろとした。
「えっと、優しそうな所とか……クールなところとか……?」
なんで最後に疑問系になるんだよ。
そう突っ込みそうになりつつも「それで?」と言葉をもう少しねだる。
「えっと……あと、かっこいいし……」
「……ふーん」
これ以上聞いても仕方ないような気がしてきた。