致死量カカオ
苛立ちをこらえながら動けないまま二人を見つめていると、豊海がふと視線をあげたとき、俺の視線とぶつかった。
「……た……」
「話があるんだけど?」
挨拶する気も起きないくらいだ。
何を話しに来たのか全くわからない。
ただ、責めたい気分になる。
俺の声に何かを感じたのか、豊海は一瞬びくりと体を震わせてから隣にいた男に軽い挨拶を交わして俺の方へと歩み寄ってきた。
相変わらず、今も体調は悪いみたいだな。
その原因は、あいつのせいか、それともほかの男のせいなのか知らないけど。
「誰?」
「……え?」
低く小さな声で呟いた俺の声を拾った豊海は、落としていた視線を少しだけあげて俺を見てからすぐさままた床に落とした。
今俺と視線を合わせないのはなんでなんだよ。
俺のことが好きだから?
それともやましいことがあるから?
気まずいから?
「さっきの」
「あ、えと、隣のクラスの……」
「へえ、で?今気分が悪そうなのはあいつが原因?お前も忙しいな」
言いそうだ、なんてとんだ間違いだな。
躊躇することもなく口から出てくるのはそんな言葉ばっかりだ。