致死量カカオ


――彼女ができた。


そんな噂を聞いただけでいっそ死んだ方がいいんじゃないかなと思うくらい。


やめて、触れないで。

そう思うなんて、私はどれだけ我が儘なんだろう。

だけど別れた私が高城に言える事なんて無い。さっきみたいに言う権利なんて存在しない。

……言っちゃったけど。


分かっていたはずなのに分かってなかった。


高城の前の彼女と比較して自分で卑屈になってこれ以上黒く染まりたくなかったのに、別れたって言うことはまた新しい人が出来るかも知れないってことで、分かっていたはずなのに分かってなかった。


この先もこの感情から逃れられないのかも知れない。

それならいっそ死んでしまった方がいいかもしれない。


死にたくないから離れたのに。
離れたら死んだ方がマシだなんて。

どっちを選んでも死ぬってことなんじゃないのこれ。バカみたい。


「触れたいなあ……」


数回だけ、触れた高城の手を思い出して自然と口から零れた言葉と同時に涙まで溢れそうになる。


触れないで。私は触れることが出来ないのに。

自分が出来ないことが悔しくて仕方ない。

触れることが出来たら、こんな風にドロドロの気持ちにはならなかったのかな?

触れたいのに触れられないから、触れている、触れていた全ての人を疎ましく思ってしまう。



高城だって彼女には触れたいって。

なのに私と一緒にいてくれた。そう思うと嬉しくてまた死にそうになるんだけど……。


だから、高城のために別れた、なんて言えない。
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