致死量カカオ

逃げていたから。
そんなこと自分でわかっていた。それしか方法がないと思っていた。


嫉妬なんかしたくない。出来ないことを目の当たりにするのは辛いし悔しい。

そうやって逃げ回って得たものは、苦しさばっかりだった。


好きすぎてくるしい。
好きなのに会えないのが苦しい。
好きなのにやめないといけないのが苦しい。

悪化するばかり。


好きで、好きだから、触れられないのが苦しくて逃げたのに、結局同じことだったんだ。


本当に高城は私にとってチョコレートみたい。

食べなかったら、こんな症状知るはずもなかったのに……食べてしまうと美味しくて美味しくてやめられない。

ないと淋しい。
欲してしまう。


知らなければよかった。
だけど知って良かった。

こんな美味しい物、知らないままなんてもったいない。

ふわりと口の中で広がるチョコレートは甘くて美味しくて、その後にすっごい辛い事があるかもしれないと分かっているのに、それでもほんの少しでもその幸せを味わいたくなる。

癖になる。それがないと生きていけないくらいに。ほんの一瞬の幸せでいいから、それだけでいいから。

それだけで、なんてできないくせに。
一回口に入れたらもっともっとほしくなるのに。

だけど、それがやっぱり幸せで、嬉しいんだ。


「……ふ……う」


このまま本当に死んでしまいそう。
このまま……こんな悲しい気持ちのまま。


そんなの嫌だ……!
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