致死量カカオ

どれほどの時間、1人靴箱で突っ立っていたのか分からないけれど……気がついたら私は走り出していた。

もう、帰っているかも知れないのに。
走ったって追いつかないかも知れないのに。


だけどこのままなんて嫌なんだ。

息苦しさを堪えながら必死で駅までの道を走った。


――悪い事ばっかり考えてたらきりがねえじゃん


そういった昭平の言葉の意味が分からなかった。

今でもはっきりわかる訳じゃない。
だけど思う。今は。


悪い事はいくらでも思いつくから。だから。


それを乗り越える、そういうことを考えたい。

ムリかも知れない。

そんな思いがあればうまくいくなんて思えない。だったら始めからムリなんだって思った方が楽。

だけど。


そんな気持ちで楽しい時間を、死にそうになるけど幸せな時間をなくすのは、嫌だって、思うから。


高城の後ろ姿が見えて、足がもつれそうになる。
もう少しで追いつくのに。
心のどこかでもうやめとけと言う。


そっちの方がかんたんだから。
その方が傷付かなくていいから。


その気持ちを見ないふりは出来ないし、ないことにも出来ないけど……。それでも。


それでもいいんだと、思えたら、そしたら……。そうなりたくないけど、それでも欲してしまうこの気持ちを受け入れたら……。
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