致死量カカオ
今より自分を大事に守ることが出来るかも知れない。
少なくとも、今より自分を傷つけることはないかもしれない。
次第に近づく高城の後ろ姿が涙で霞んでくるのを、唇を噛んで必死に耐えた。
死ぬのはいや。
死にたくない。
幸せなものがこの先たくさんあるかも知れないのに、それを失いたくない。幸せだからなくすのは怖い。
だけど……何もかも自ら無くしたら何一つ残らなくて、それを捨てたのは自分で。
そう思えば今だって、いや今の方が、死にたくない。
何もないまま、何もかもを失ったまま知らないままなんていや。どっちにしても嫌なら。
だったらほんの少しでも手に入れる方がいい。もしかしたら思っているよりもっとたくさんの喜びが手に入るかも知れないのに!
死にたくない。死んでもいいなんて、死ぬまで思わない。
だから。
死ぬまで必死に、死んでやるかと、突き進みたい。
諦めて手放すよりも、ちゃんと自分の手を伸ばして欲しい物は、自分の手で掴もうとしたい。
結果がどうであれ。
「高城……!!」
伸ばした手。そして叫ぶ名前。
振り返った高城の顔が、視界に映って……。そして――……
交差点から飛び出してきた、赤い、車。