致死量カカオ

ぱっと手を離すと幸いにも血はすでに止まったみたいで彼女はうつむきながら鼻をすすった。

きっとすぐ止まった理由は俺の返事だろう。


「過去の話はしらねえけど、だからって勝手に落ち込まれたって俺にはどうしようもねえよ。

まあ過去は元々どうしようもないけど。

それを勝手に逃げ出して、ほかの男と一緒にいて、俺といる時みたいに気分悪そうな顔して……。

ふざけてんの?」


ここまで言ったらさすがの豊海でももうわかるだろう。

完璧にわからなくて、なんかしら伝わったのか豊海は顔を上げて俺を信じられないとでも言うように見つめてきた。


ずっと考えてたんだ。
昭平に言われたことを。

俺が殺したことになるんだと。
俺のせいで豊海が死ぬことになるんだと。

……それが良いのか悪いのかわからないけど……だけど普通に考えれば人殺しみたいなもんにはなりたくない。

直接手をかけた訳じゃなくても、俺がいなければ死ぬはずはないんだから。


だけど死ぬかもしれない。


そして今俺が離れたって、いつか豊海は誰かを好きになって同じようにアレルギー症状で死ぬかもしれない。


そう思ったらどんなに考えても俺の答えはいつも一つしか出てこないんだ。


こんなのおかしいだろうと思うのに、なのにどうしてもそう考えてしまう。
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