致死量カカオ

「で?どうせまた、好きじゃないんでしょとか言われて振られたんでしょー?あんたも成長しないよねー」

「うっせ、黙れ」

裕子の腕から逃れるように足を進めると、背後から裕子の文句がかすかに聞こえた。

何を言ったのかわからなかったけれど、多分「クールぶってる」とか「愛を知らない男」とか「ナルシスト」とか言ってるんだろう。



裕子と付き合ったのはたまたまで、成り行きだった。

確かに裕子のことを好きじゃなかったわけではないけど、恋愛感情かといわれるとそうでもない。どっちかといえば友情のほうが近い。


男女の友情なんか信じてないけどな。現に裕子とは元恋人同士の関係になったわけだし。

一年のときに同じクラスだった。同じ理系コースのなかの唯一気を使わなくていい女としての認識だったけれど。


たまたま俺はいつものように彼女に振られた。

たまたま裕子も彼氏の浮気が発覚して別れた。


そのタイミングが一緒だっただけで「じゃあ付き合ってみる?」その言葉を発したのは裕子だ。


別にいいかと付き合って、その日に体をあわせて、いつもと変わらない付き合いを重ねた結果、一週間後に「私のこと好きじゃないよね?」と別れを切り出したのも裕子。

お前もだろうが。

二年になってクラスが離れても、というか隣のクラスだけど、それでもこうして以前のままそれなりに関係は続いたまま。

その程度の関係だった。

まあ、一週間の関係なんかそんなもんか。ちなみに最短記録は5日で裕子じゃないけど。


「あーあっち」


隣を歩く宮木と裕子は無視して空を見上げてつぶやいた。
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