2222―SF(すっとぼけフィクション)―
○○○○○


あの時に握られた手の感触を、今もまだ忘れてない。

もし、

そのときに握った手を離さずにいられたら、

あたしの世界はもっと違った色に彩られてたのかも。


でも、
あのときのあたしにはきっとああするしかなくて、

それは今のあたしでもきっと同じだったと思う。

それにもうまえのこと。

結局は、
彼は彼の人生を、あたしはあたしの人生を歩んでいくしかない。



……まあ、けど、
今はそんなこと、
どうでもいいわけで。



とりあえずワタルの手があたしの手を握ったから、

包帯に触れてる手を離して、

開いて、

ワタルの胸のあたりまでもっていった。

手を握られたのは、
話があるよっていうワタルの合図。

目の見えないワタルはあたしの腕をたどっていって、

手のひらの位置を確認すると、

開かれた手のひらに人差し指で字を書く。


[おーいユキちゃん、
その荷物で最後だから。
トラックに積んだら扉閉めてくれ]

……だって。

。って書いた後にちょんって手のひら叩いたら会話の区切りを意味してます。

んで、
返す言葉があったから、
指先をぎゅってつかむあたし。

いいたいことあるよっていう合図。

すると今度は反対に、

ワタルが手を広げる。

あたしは耳がきこえなくなっちゃったし、

しゃべれなくもなっちゃったから、

こんなふうにしてワタルと会話をしてます。


[あのひと、
またあたしの名前呼んだの?
やめてほし…]


って書いたら、ワタルが指をつかんできた。

なにかいいたいことが、あるようで。


[オレに言われても知らねえよ]


だそうだ。

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