2222―SF(すっとぼけフィクション)―
不倫!紅い雪のなかで
1章

◇◇◇◇◇


今日のなかで、いちばん優しい風が吹きぬけていった。

ものすごくかすかにしか、

それは感じられなかったのだけれど、

オレは手をとめて、

今日にしてはめずらしかった瞬間の記憶を僅かに反芻する。


血のにおいがぜんぜんまじってない風のにおい。


「おーいユキちゃん、その荷物で最後だから。
トラックに積んだら扉閉めてくれ」

そのとき、ダンボールの箱みたいなものを運んでいるオレの後ろから声がした。

日雇いで便利屋の仕事をしている、オレたちの今日のボスの声だ。

声の感じからすると五十代くらいだと思う。

そして気になることがある。


...なぜオレの名を呼ばない?


おかしい。耳が聞こえるのは、話ができるのは、このオレなのに。
オレはユキの指示通りに荷物を置いた後、

ユキに合図をするため、

包帯のうえからオレの頬に触れてる手を軽くにぎった。
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