授けられた力・消えた記憶
カリンは踏みだそうとしていた足を止める。
ただただそれを見つめていた。
「?…」
それに気づいたのか、リリンの側に立っていた者がこちらを向く。
緑色の瞳…鋭く見つめるその瞳…
その目に睨まれ、背中に寒気を覚えた…
(誰だろう…)
(知っているような気がする…)
(だけど…)
リリンを殺したと思われるその者は、カリンへと近づく…
一歩一歩…確実に差を縮める…
その男が近づくにつれ、胸の鼓動が早まる…
(誰…)
カリンは思いだそうと試みるが、何かがつっかえているように、思い出せない…
男はカリンに更に近づき、手を伸ばす…
(怖い…)
その時初めて感じた…怖いと…
カリンは後退り、濡れた地面に足をとられて尻餅を付く。
(怖い…)
目を見開き、近づく男を見つめる…
(怖い…)
この男が怖いのではない…
思い出そうとしている何かが、カリンを恐怖に駆り立てているのだ…
カリンの心が、体が、全てが、思いだそうとしている事を拒絶している…