ちゆまど―世界は全て君のために―
奇跡だったか、それは。
少なくともシブリールにはそう見えた。
血だまりも、落ちた右腕も、全てが最初から無かったかのように消え失せた。
『生きてください、兄さん』
そう彼女は言ったあとに眠りにつく。
眠りについた彼女を呆然とイナディアルは抱きかかえて。
「生きろだって……」
誰に構わず呟いて。
「こんな僕でも生きて欲しいんだって……」
涙は枯れない。
「分かったよ、ユリウス。君が僕を必要としてくれるなら、僕は君のためだけに生きよう」
耐えられない罪と共に生きることを決めた身体は、優しく彼女に微笑んだ。