ちゆまど―世界は全て君のために―
彼女の決意と彼の意思
(一)
「まったくもって、甘いですわ!」
シンシアさんの声は、薔薇庭園に響き渡るほど高かった。
ドレスを翻しながら、自分がいかにご立腹かを私たちに語る。
「見逃すですって?人食い猛獣を?甚だしい!私は反対ですからね!」
「落ち着け、シンシア。もう人は食わないと言っている。俺たちが手を下すこともないだろう」
諭すシブリールさんをきっと睨み付け、シンシアさんはまだ納得しきれてなかったようだ。
――シンシアさんの怒りは、兄を見逃すという決定事項がおりたからだ。
私の意識がない内に、兄は行ってしまったらしい。
『もうユリウスが嫌がることはしない。人など食わないよ。餓死はしにくい体だが、いつか終わりが来るまで、僕は世界の淵をさ迷おう』