ちゆまど―世界は全て君のために―


愉快と笑う吸血鬼は剣をあげた。


「殺したくなるほど」


ばっ、とシブリールさんが私とシュヴァルツさんの間に入る。


「貴様……!」


「冗談だよ、俺は襲ってこない限りは殺しはしない」


剣が下げられる。


「その点、ユーリちゃんは凄いよ。俺に“殺させたい”と思わせたんだから。大好きだ。だから、そんな大好きな君のために――」


さながら囁くように。


「綺麗な想いを持ったまま死なせたい。汚いものを見て、絶望する前にね」


何よりも甘い声で、殺したいと言ってみせた。


まだ言いたいことはあったけど、シブリールさんが無理矢理引っ張るので強制退去となった。


背中を向けるなり、何かを貪り食う音がいつまでも響いていた。


< 72 / 237 >

この作品をシェア

pagetop