平安異聞録
何時もより怪しい父に眉をひそめながらも、聖凪はもう一度問い掛けた。
「何かお話があったのでは?…………また何か都で不穏な事でも?」
後半を声を潜める聖凪に晴明は複雑な心境になった。
我が娘ながら疎い子に育ったようだ。宝の持ち腐れと言っても間違いはないかもしれない。
等々考える晴明だが、そう育てたのは他ならぬ自分である事に気付こうとはしない。
一向に口を開こうとしない晴明を、聖凪は居住まいを正し根気強く待った。
それでも、なかなか口火を切らない晴明に聖凪は代わりに、口元を袖で隠しつつもう一度問い掛けた。
「何か外で不穏な事でも?」
まだ沈黙を保っていた晴明も、ようやく抑揚の無いこえで気だる気に答えた。
「……いや、問題があったのはこの邸だ」
「この邸?不穏なモノは感じられませんが?」
それとも、自分が感じ取れないくらい手強いのだろうか。父と自分の差がなかなか埋まらない事に聖凪は悔しげに唇を噛んだ。
険しい顔で真剣に問い掛ける聖凪に、晴明は今度こそ哀しげに、哀れんだ視線を向け、すぐに反らした。
そして、先程よりも深いため息をついたのだった。
それには、流石の聖凪もむっとした。
気付けなかった自分自身がいけないのだが、その表情にそのため息には神経を逆撫でされる。
また、何やら考え違いをしているようだ。
聖凪の表情が少し……親ならば分かる程度に引きつったのを見て、一瞬意味あり気な顔をすると、晴明は脇息に預けていた身を起こした。