アイツに彼氏が出来た。
思考が止まりかけた。

俺の周りの空気だけ、重く鈍く動いているような感覚。

「…え?」

気の抜けた声を出す自分が、何処か遠くに感じられた。

「…昨日付き合い始めたんだけど」
言葉を続ける優太の声。
「君には、言っておきたくて」
振り向けばいつも横にいた、琴美の声。

女らしい、けど透き通る、琴美の綺麗な声が、壁の向こうから聞こえる錯覚。

……………俺は。


「……まじか。」

「うん」
普段俺にはあまり見せない、可愛らしい照れ笑い。

コイツの、琴美のその表情を、抱きしめたくなった。

「…ハ、ハ。まじか!んだよ、何かこっちが照れくさくなるじゃねーか、あーあー、知ってたら花束でも持ってきたのによ!」

わしわしり、琴美の柔らかな髪を撫でまくる。
「あたたたた」小さ
な抗議の声は聞こえないふりをする。

今更気づく。
コイツの髪がすごく綺麗なことに。


気付かれないように、悟られないように。

いつもの俺みたく、笑い飛ばす。
「はははっ、じゃあ何かお祝いしなきゃな!」
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