zinma Ⅰ
この村は、周辺を古くからある深い森に囲まれていて、この村に住む人たちもまた、古くからこの地に住んでいる一族の子孫だ。
いわばこの村の人たちはみんな同じ血をひく、ひとつの家族なのだという。
だからこの村の人はたいてい、栗色の髪か黒の髪。黄緑の瞳か、栗色の瞳をしている。
またこの村には、村でたったひとつの病院とパン屋。それからたった10軒の民家しかない。
外界から切り離された、ひどく狭い土地と、少ないながらひとつの一族として暮らす人々。
この村は外界からすれば信じられないほど、穏やかで平和な時間が流れているのだ。
平和。
へいわ。
ヘイワ。
僕が憧れていた言葉…
「イルト。」
と、だれかが僕を呼んだ。
振り返ると、そこには杖をついて立つ一人の老人がいた。
「バルさん。おはようございます。」
この村で唯一の医者である、バルさんだ。
僕がこの村に来てから、アルマさんに引きとられるまで僕の治療をしてくれていた人だった。
そして。
イルト。
この地の古い言葉で、『星の子』という意味だというこの名前を僕に与えてくれたのも、バルさんだ。