zinma Ⅰ
バルさんは頭の横側にだけ残る白髪に、アルマさんとシューと同じだがそれよりも薄い黄緑色の小さな瞳。それから胸元まで伸びる細いあごひげをはやした70代の老人である。
そんなあごひげを左手でなでながら、バルさんは僕をじっと見た。
「どうかしましたか?」
と僕が聞くと、バルさんはしゃがれた低い声でゆっくりと答えた。
「体調のほうはどうかね?」
バルさんは僕に会う度に、そう聞いてくれる。僕はそれに笑顔で、
「もう完璧に治りましたよ。
バルさんのおかげです。
ほんとにありがとうございます。」
と答えた。
バルさんは、ふむ、とひとつ満足げにうなずいてから、少しだけ難しい顔をして、
「………記憶のほうはどうかね。」
と聞いた。
それに僕は少し困った顔をして、
「…相変わらずです。」
と答えた。するとその僕をまたバルさんはじっと見つめたあと、
「そうか……」
と、一言つぶやいてから、僕から顔をそらし、離れたところで村で一番の高齢のラナヤおばあさんと話しているシューを一瞥する。
つられて僕もシューを見ると、
「……笑うことが増えたようだな。」
と独り言のように、ぽつりとバルさんが言うので、
「え?」
と思わず聞き返した。