zinma Ⅰ

しかしそこで


「バルさーん」


と言いながら、シューがこちらへ走ってくる。そのシューを穏やかに眺めながら、バルさんはまた独り言のように続けた。



「……わしは、お前は……イルトは、もう笑わないと思っておった。」


そこでバルさんは僕をみる。小さいけど、とても深い、目で。



「……だから『星の子』と名付けたんだ。静かに空でまたたく美しい星のようだと。」


そこでまた走ってくるシューへと目を向け、かはは、と小さく笑ってから、また続ける。


「それがまさか、ただの星ではなく、こんなに光るようになるとはな。」


「…………」

と、そこでシューがこちらにたどりつく。少し息を切らしたシューの頭にバルさんは手を乗せると、不思議そうに見上げるシューを静かに微笑みながら頭をなで、



「シューのおかげだな。」

と言って、それ以上何も言わず、バルさんは帰って行った。



僕はしばらく、どこか機嫌の良さそうなバルさんの背中を見送っていたが、

「なになに?
なんのお話してたの?」

と不思議な顔をしてシューが聞いてくるので、

「……うん。なんでもないよ。」

と言ってシューに微笑んでから、まだ不思議そうな顔をするシューに、

「ほら。今日は何する?」

と聞いた。するととたんにシューは笑顔になって、

「あ!えっとーそうだなあ。
かくれんぼもしたいし、向こうのお花畑にも行きたいし、川で水遊びもいいなあ!」

と、うーん、と悩んだり、ぱっと笑顔になったりして考えるシューを僕は見守っていると、突然シューがはっとして僕の手をとる。

「ねっねっ。
イルトは何がしたいの?」

と聞いてくる。
それに僕はしばらく空を見上げて悩んでから、あ!と思いついて、

「それじゃあ……」

と言いかけたところで、

「いーるーとー!!!」

とだれかが大きな声で呼びながらかけてくる音が聞こえる。それに僕とシューが同時に振り返ると、その走ってきただれかが、走ってきた勢いのまま僕に思いっきり抱き着く。

「わっ!」

っという声を上げただけで、僕はそのまま倒れた。
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