zinma Ⅰ
おかしなことが起こっていた。
さっきまで腕を組んで立っていた女の人が、腕をくんだまま、器用に右手の手首だけくるくると動かしている。
そして空気に、光る文字で何かの模様をかいていく。
僕はそれを見て、言葉を失った。
マジュツだ。
自然に体が一歩右に動く。
それと同時に、女の人が書いた模様が一瞬輝いたかと思うと、さっきまで僕が立っていた場所に、僕の体の大きさほどの火柱が上がる。
マジュツだ。
初めて見た。
でもこれは。
どういうこと…………?
それに女の人は、ずっと無表情だった顔を少し驚いたようにして言う。
「ふむ。なかなか良い反応だ。
さっき私たちから逃げ出した判断力の早さといい、優秀だな。」
なんて言う。
でも僕はその声がよく聞こえない。
マジュツだマジュツだマジュツだ。
初めて見たけど、なぜかあれがマジュツだとわかる。
そんなことより。
それをなぜこの人が?
それに答えるように女の人は言う。
「今のは魔術だ。」
まるでなんでもないように。
当たり前のように。
僕をずっと苦しめてきた言葉を、あまりにも簡単に言う。
さらに畳み掛けるように女の人は言う。
「お前も魔術を使ったから捕まったんだろう?」
体が震える。
ちがう。
ちがうちがうちがうちがうちがう
「ちがう!!!!!!」
気がついたら僕は叫んでいた。
「ちがう!!!!僕はマジュツなんか……マジュツなんていま初めて見たんだ!!!僕は……あの日僕は………」
そこまで言ってあの日のことを思い出そうとすると、また僕の心が悲鳴を上げる。
思い出したくない。怖い。怖いよ。
僕は頭を抱える。頭がひどく痛む。
まるでこの記憶を外に追い出そうとしているかのように。
そして僕は、この痛みを口から出そうとするかのように、
「う、うああああああ!!!!」
叫んだ。