zinma Ⅰ



「………それで、この先僕がどうするかは、僕次第だということですか?」


冷静な声で言う僕に、男の人も女の人も、驚いた顔でこちらを見る。


それを僕は見つめ返す。



その僕の目を見つめてから、また無表情に戻った女の人は答える。


「そうだ。」


また僕は聞く。


「選ぶのは、どんな選択肢ですか?」


また女の人が答える。


「……『神の呪い』の任務を、無理に受け入れる必要はない。

このままただの一人の人間として生きることもできる。

だが、もし『選ばれしヒト』としての運命を受け入れるつもりなら………


そのときは私たちが、お前を鍛える。」



「………鍛える?」


そう聞くと、次は男の人が答える。


「そう。鍛える。

君に私たちの持つ知識を与え、さらに君がこれから、『呪い』を殺す前に『ヒト』に殺されたりしないように。

できるだけ長く生きながらえるために。

君を鍛える。」





そんなの、普通の人間なら、人間として生きることを選ぶに決まっている。


わけがわからないまま、わけがわからないものと戦うなんて、馬鹿らしいにもほどがある。


なのに先代の『選ばれしヒト』たちは、その運命を受け入れ、そして死んでいった。

なぜその道を選んだんだろう?

正義のため?

人間を『呪い』から守るため?


どれだけ英雄なんだ。



もしかして。

神が、そういう美しい心を持った『ヒト』を選んでいるんだろうか。

上手く利用できるように。



それならなぜ神は僕を選んだ?

残念ながら、僕はそれほど美しい心を自分が持っているとは思えない。

正義のためとか。

人間のためとか。


そんなものに自分の命をかけるつもりはない。



だって僕は今まで、その『ヒト』に、傷つけられたのに。

『ヒト』が語る、正義だとかいうものを貫くために、化け物の僕は傷つけられた。




その僕が、世界を助ける必要が。



どこにあるというんだろう。





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