zinma Ⅰ
そのあと僕とアルマさんは、バルさんの病院へと行った。
バルさんは病院の外に置いた椅子に座り、外を眺めていた。
僕たちがやって来たのを見つけると、いつものように僕の目をじっと見つめ、何かを悟ったように微笑んだ。
僕たちから話を聞いたバルさんは、僕とふたりで話したい、と言い、僕を外に連れ出した。
ふたりで病院の外の椅子に座る。
バルさんが、まるで世間話か何かをするように、なんの抵抗もなく切り出した。
「記憶が戻ったのか。」
「…はい。」
「……そうか。」
森のほうから飛んできた小鳥が、僕らの目の前の地面をついばんでいる。
「お前が何を背負っているかは、わからない。あえて聞こうとも思わんよ。
お前がもう、決めたことだからな。」
それに、僕は驚いてバルさんを見るが、バルさんは真っすぐ景色を眺めたまま、続ける。
「……運命というのは、得てしてひどいものだ。
たとえその未来に希望がなくても…
それがお前の運命である、なんて言われたら、それまでだからな。」
僕は唇をかむ。
バルさんはなんでわかったんだろう。
僕の未来には、もう絶望しかない。
「……だが、運命のその先に待つ、死を迎えたときに、お前が何を思うかは、運命にも決められないんだよ。」
運命にも、決められないもの…?
そこでバルさんがこちらを向く。本当に真剣な、僕の目を射抜くような目だった。
「たとえだれが見ても明らかに不幸な運命を受けたとしても、その者がその運命の中で、小さな幸せを見つけ、それに生きることができれば、その者は死ぬときに笑っていられるんだよ。
運命は勝手に押し付けられるが、幸福か不幸かは、自分自身にしか決められない。」
小さな、幸せ。
それに僕は、首に掛けた石を握る。
いまいちバルさんの考えは、僕には難しい。
でも、その考えが、嫌いでないことは確かだった。