私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
夏子さんの申し出を、私は受け入れることにした。

内容を聞くと、あまり力仕事はないということと、休憩が多いということ。なにより時給がかなり良かったのだ。


「さ、行こうか」

数日後、私は夏子さんと一緒にネカフェ(もどき)を出た。


始業時間は朝の9時。ラッシュを外した時間の移動は楽で助かる。駅から現場まではやや歩かなくてはならないが、それでも気候がゆるんできた季節であれば、散歩がてらに丁度良いかもしれない。

殺風景な倉庫街では、歩いている人はあまり居ない。代わりに大型のトラックやトレーラーがひっきりなしに走っている。

何もかもが灰色の風景は、いまの私の生活を代弁しているように思えた。


海の近い倉庫街を歩きながら、夏子さんは話を切り出した。


「雪は健康保険に入ってる?」

自分の恥を晒すようで、私は言葉を詰まらせた。その様子をみて、聞くまでもないと悟ったのだろう。夏子さんは先を読んでくれた。

「まあ、入ってる人は少ないからね」

そう促されて、私は小さくうなずく。

「住所は以前の寮だっけ」

「うん」

「市民税とかの通知があて先不明で返ってきたら、登録外されちゃうからね。いまは住所不定になってるかな」

「たぶん、そうなってると思う」

かと言って、東京都で住民登録をしようにも、私には住んでいる家がない。
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