私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
「なんとかして健康保険だけでも取れないかな」

夏子さんはいったん考え込んだあとそう言った。


「やっぱり要りますかね。でも出産費用は保険きかないんですよね」

「うん、それはそうなんだけど、出産育児一時金って制度があるの知ってる?」

「いいえ、全然」


それは初めてきく言葉だった。


「あのね、健康保険に入っていると、市町村にもよるけど確か……35万円くらい支給されるのよ」

「ええ、そうなんですか!」

「それに経済状態によっては保険料の免除ってのもあるし」


私はあまりにも世間知らずだった。

自分たちにとって悪い制度ばかりだとずっと思っていたが、救ってくれる制度だってあるのだ。

それは思いもよらなかったことだった。


しかし


「でも、住所不定だったら健康保険には入れないんですよね」


結局それが重い足枷になってくる。

どんなに制度が充実していても、それが住民登録されているというのが前提であれば、私には何の役にも立たないのだ。


夏子さんは、瞳に憂いをたたえたまま私を見つめた。


「うん、そうかも知れないけど……ダメもとで区役所に行ってみたらどうかな?」

「どうせダメなら……」

「私たちにまともな道は残ってないんだからさ、足掻くだけ足掻いてみたらどう」

「うん……」

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