私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
頷いたものの、私はあまり乗り気じゃなかった。

区役所にまで行って、高圧的な役人から絶望の審判と侮蔑の言葉を投げかけられるのはごめんだ。

だいたい役人という人種は、いかに貧乏人を支援するお金をカットするかに命をかけていると言っても良い。あれやこれやと理由をつけては、絶望の淵からかろうじて伸ばした手を平気でけとばすのだ。

過去、ハローワークでの無情な対応だけでも、それは垣間見えた。


「住所が欲しい……」


私の口から、本音が漏れる。


「夏子さんは住民票あるんですよね」

「うん、まあね。私は保険なかったら……あれだからさ」

「え?」

「ううん、ちょっと持病があるの。定期的に病院の世話になってんのよ」


確かに少し病的な印象は受ける。

肌のつやは悪いし、出会ったときに体を引き上げた際、まるで空気のような軽さを感じたのだ。

そういえば、時折り苦しそうに顔をゆがめることがある。あれがそうなのだろうか。


「仕事、大丈夫なんですか?」


少し心配になって、私はきいた。


「今日みたいな仕事だったらね」


こちらの心配を敏感に受け取ったのだろう、夏子さんは明るく笑ってみせた。

そして

「着いたよ」

といって、大きなターミナルの出入口で足を止めた。


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