私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~
入り口の警備員と軽口を叩きながら入門手続きをしている夏子さんを見ていた。薄いパーカーの背中が丸々と、背骨が浮き出ているのがわかる。

(本当に大丈夫なのかな)

すっと不安が頭をよぎったが、手続きを終えた夏子さんに促されて事務所に行くと、今日から一ヶ月続く仕事への緊張が邪念を消し去っていた。



仕事は本当に楽なものだった。

単身生活をしている人たちのための引越し荷物をきれいに梱包して、ロールボックスと呼ばれる背の高い檻のようなキャスター付きの貨物カゴに詰めるのだ。

その作業自体のんびりしているのに加えて、1時間ほど仕事をすると、すぐに30分の休憩となる。

これは現場責任者の気まぐれだろう。自分の都合に合わせて、適当に休憩が入るのだ。



「夏子さん、ここの仕事、笑っちゃうくらい楽なんですけど」

3回目の休憩に入ったとき、思わずそう言っていた。

「でしょ。きつかったら誘わないよ」

「こんな現場あるんですね」

ネットカフェの麦茶を空のペットボトルに入れて持ってきたが、それすら特に飲みたくなるほど喉も渇かない。

「日雇いは当たりはずれが大きいからね。かと言って、はずれでも時給がそれに見合ってるわけじゃないからね」

「ですよね。すごくキツイのに、一番安い時給とかありますよね」

「そうそう。そんなのはね、仕事紹介した事務方に文句言うわけ」

「あ、そう言えば、このまえ事務所で文句言ってましたね」

「ああ、あれは前の日の現場がね、交通手段がない時間まで働かせて、帰りにタクシー代も出ないってことで文句言ったの。終バスはとっくに出てるし、駅まで歩いて2時間よ。考えられる?」

「うわあ、それはヒドイですね」

「そんなん当たり前だよ。日雇い派遣はね」

事務所側が現場を把握していないことも多い。適当に仕事を取ってきて、ろくな下調べもせずに派遣しているのだろう。
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